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和田智行、和田昌子、清田翔衣

小高ワーカーズベース(iriser)代表取締役、ランプワーカー

課題から生まれるビジネスの芽 〜小高を彩るガラス職人たち〜

2016年7月まで、原発事故で避難指示区域となっていた南相馬市小高区に、ひときわ個性を放つコワーキングスペース「小高パイオニアヴィレッジ」があります。小高ワーカーズベースが運営するこの施設内のガラス張りの一角にあるのが、オリジナルガラス細工ブランド「iriser -イリゼ-」の工房。普段あまり目にする機会の少ない「ランプワーク(バーナーワーク)」がメインのガラス工房です。

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課題解決から探る「生きる力」
小高ワーカーズベース代表の和田さんは小高のご出身。大学入学のタイミングで上京し、その後プログラマーとしてITベンチャー仲間と共に東京で起業。ネットでのジュエリー販売やゲーム制作のビジネスを続けながら2005年に小高にUターンしました。

「戻ってきた小高で震災と原発事故を経験した当時は、3歳と1歳の子どもを連れての避難生活でした。当時それなりに稼いでいたわけだけど、避難中って食料もガソリンも手に入らないし、避難所にも入れなくて寝床がない。放射能の知識もなかったので、逃げられなかったら子どもたちも被曝して死んじゃうんじゃないかというような不安もありました。そんなふうに避難生活を送っていると、稼いでいたとはいえ、「生きる力」が全くないなと痛感して。いろんな人が助けてくれて生きてこれたことを振り返ると、収入は大事だけどその柱がぽっきり折れた時に社会の中で生きていけなくなるというのはかなりリスキーだと思ったんです。一本一本の柱は細いかもしれないけど、収入以外にも地域とのつながりをたくさん持っている方が人生として安定するし面白いんじゃないかということを気づかされました。自分にとっては課題=ビジネスの種で、小高には誰もやりたがらない課題がたくさんある。日本のような成熟した社会にそんなフィールドってなかなか存在しないと気づいた時に、この地域の課題を解決していくことを仕事にしていこうと決め、小高ワーカーズベースを立ち上げました」

和田さんは、2015年に「HARIOランプワークファクトリー小高」としてガラス細工事業をスタートさせ、ランプワーカーさんを雇用しながら、2019年に自社ブランド「iriser」を立ち上げました。
「『地域の100の課題から100のビジネスを創出する』をミッションに掲げ、地域課題をビジネスという手段で解決しながら自分たちが暮らしやすい町を作ることを目標に小高ワーカーズベースを立ち上げたのが2014年。当時、「どうせ若い人は帰ってこないよね」というのが町の人の口癖になってしまっていて、それをどうにかしたかったんです。帰ってこないのはなぜかを考えた時、若い人にとって魅力的な仕事、例えば子育て中でも働きやすい、時間に拘束されない、可愛いものを作って稼げるといった仕事がないからだろうと。ちょうど、耐熱ガラスメーカーのHARIOさんが2014年からガラスアクセサリー事業を始めていて、そこの職人さんが南相馬のボランティアに何度か来ていたことで繋がりができました。話を聞くと、まさに若い人が興味を持ちそうな仕事だったのと、始まったばかりの事業ということでHARIOさん側も職人を増やしたい時期だったので、HARIOランプワークファクトリーの生産拠点として小高で工房を作りました。それが2015年ごろで、当時まだ避難指示が解除されていなかったため、街の中を歩いてる人は作業員さんが中心で。そんな中に女性が集まって可愛いものを作ってる、しかもバーナーワークという珍しい作業をしている、というのが町に新しい空気を生み出すんじゃないかと。なので、ワーカーさんに前面に出て頂いたり、作業風景が外から見えるようにするというのは意識してやっています」

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ランプワーカーの現場
今回は、実際に工房で働くワーカーさんにもお話を伺うことができました。この工房では、勤務時間帯も自分のライフスタイルに合わせて選ぶことができ、家庭と両立している方も多いそうです。入社6年目のベテラン、和田昌子さんは南相馬市原町区在住。介護と仕事を両立させながら、10時から16時半までのパートタイムで勤務しています。今年4月に入社したばかりの清田翔衣さんは、地元新潟を出て、富山の専門学校を経て入社。フルタイムで働いています。

Q. お二人の入社のきっかけは?

和田昌子さん:
前職を辞めて有給消化中だった時、この会社の求人チラシを見て応募しました。ここがHARIOランプワークファクトリー小高として立ち上がったばかりの頃でした。元々はものづくりをしていたわけではないのですが、歳も歳ですし、自分が楽しめる仕事を選ぼうと思ったんです。ガラスに興味を持ったきっかけは、猪苗代の「世界のガラス館」で見た、吹きガラス職人さんの記憶です。吹きガラスの実演をしている姿を見てかっこいいと思ったのをずっと覚えていて、そういった職人業に憧れを持っていました。

清田翔衣さん:
私は小さい頃からガラスが好きで、富山ガラス造形研究所というガラスの専門学校に2年間通っていました。好きになったきっかけは吹きガラスだったんですが、専門学校ではバーナーワークやステンドグラスなど他の技法も学ぶことができたので、いろいろ経験してみた上でバーナーが一番に自分に合ってるなと。ただ、求人を探してもなかなかバーナー職人の募集は見つからず、たまたまインスタグラムでフォローしていたiriserの、ワーカー募集の投稿を見つけて、DMを送り面接を受けました。

Q. 仕事に対する自分なりのこだわりは?

和田昌子さん:
たくさんありすぎてわからないですが(笑)、例えば、ガラスだから割れるのはしょうがないと言ってしまうのではなく、なるべく割れない技法を心掛けています。見た目は同じでもポンと落とした時に、技法によって割れてしまうものと割れないものがあるんです。カーブの具合や、ガラス同士のくっつき具合など、微妙なところで差が出てきます。それから、自分だったらこれ買うかな?と言う問いかけは常にするようにしていますね。

清田翔衣さん:
私も似ていて、やはり頑丈さや割れにくさなどについては意識しています。人の手に渡るものだから、ぜひ長く使って欲しいので。専門学校では基本的に好きなものを好きなように作っていたので、そういったことについてはあまり習っていなかったんですが、この会社に入ってからとても大事なことだと気づいて。あとは、完成品は同じでも人によって作り方は違うので、教えてもらったやり方でうまくいかなくても自分なりの方法でやってみた時にうまくいくとか、自分は何ミリ大きめに作った方が完成時にぴったりになるな、ということがよくあります。

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ガラス職人が生まれる町
和田昌子さん:
今後の夢や目標ですが、もちろん技術面ではまだまだ足りない部分がたくさんあるので勉強しつつ、個人活動としてオリジナル商品にももう少し力を入れたいですね。それから、将来的にはこの町がガラスで有名な町になったらいいなと思います。近いところから、まずは地元で愛されるブランドになって、そこからどんどん広がっていくというのが理想です。一人でやっていくというよりは、広く分かち合いたいというイメージはあります。

清田翔衣さん:
私は、将来は自分で工房を持って、展示会や販売を個人でやっていきたいという思いがあります。入社するまでは「売る」という経験をほとんどしたことがなかったので、お客様の生の声を聞けることや、初めて作った商品がお客様の手に渡った時の感動はすごく大きかったですね。今後個人でどうやっていくかはわかりませんが、とにかく今はここでやりたいことが山ほどあります。

仕事とプライベートをうまく両立させながら技術磨きを続けるお二人。それも、フレキシブルな勤務ができ、楽しみながら仕事や町づくりをする開拓者精神に溢れた人々が集まるパイオニアヴィレッジの環境があるからこそと言えるかもしれません。素敵なガラス職人が生まれる町「小高」のこれからがとても楽しみです。

つながる

『iriser-イリゼ-』を生み出しているハンドメイドガラス工房「アトリエiriser」は、福島県南相馬市小高(おだか)区にあります。2011年の東日本大震災により大きな損害を受けた小高町をゼロからスタートさせるべく地元の女性たちが立ち上がりました。
透明で上品に輝いてくれるガラスアクセサリーはお洋服を問わず、カジュアルにもフォーマルにも楽しんでいただけます。

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